リバート・トゥ・タイプとは? – プレッシャー下で元に戻るスイングのメカニズム ② vol.352

シリーズ2

リバート・トゥ・タイプ現象とは?

前回のコラムでは、ゴルフスイングがなぜコースで戻ってしまうのか、その根本的な原因について触れました。今回は、その現象の背後にある「リバート・トゥ・タイプ」という概念について詳しく掘り下げていきます。この現象は、スポーツ心理学や神経科学の視点から説明できるものです。

「リバート・トゥ・タイプ(revert to type)」という用語自体は、主に生物学や遺伝学の分野で使用されることが多く、元の遺伝的形質や特性に戻ることを指す言葉です。しかし、スポーツ心理学や行動科学の分野では、この言葉に類似する現象として、「習慣に戻る」「旧行動パターンに戻る」という概念が使われるようです。

スポーツ心理学や行動科学での類似現象

実際に、ストレスやプレッシャー下で人が以前の行動パターンや技術に戻るという現象は、スポーツ心理学や神経科学で広く研究されています。この現象は「revert to type」とは呼ばれないものの、以下のような概念で説明されます

習慣の強化(Habitual Reversion)

長期間にわたって行われた動作や行動パターンが強化されており、新しいパターンを学習した後でも、プレッシャーやストレスがかかると、無意識に古いパターンに戻ることがあります。

コンフォートゾーンへの戻り(Returning to Comfort Zone)

プレッシャーの中で、自信が持てない新しい技術よりも、慣れ親しんだ旧技術や行動パターンに頼る心理的傾向があります。

プレッシャー下のパフォーマンス低下(Choking under Pressure)

スポーツや競技の場で、過度のプレッシャーがかかると、普段の練習で得られた新しい技術を発揮できず、逆に古い技術に頼ってしまう現象。

 

関連学問分野

スポーツ心理学

スポーツ心理学では、「リバート・トゥ・タイプ」は競技者がプレッシャーやストレスを感じる状況で、長い間培われた古い技術や動作パターンに戻ってしまうことを説明するために使われます。たとえば、ゴルフやテニスなど、技術的な動作が重要なスポーツにおいて、新しい技術を習得しても、試合でプレッシャーを感じると、古い技術に戻ってしまうことがあります。これは、競技者が緊張しているときに無意識に「安全」と感じる行動パターンに頼る傾向があるためです。

神経科学

神経科学の観点からは、脳が新しい動作パターンを学習しても、過去に何度も繰り返された動作パターン(古いスイングなど)が神経経路として強固に形成されているため、ストレスやプレッシャーがかかると、その強化された神経経路が優先され、古い動作パターンに戻ることがあります。この現象は、脳のプラスチシティ(可塑性)や記憶の固定化に関連しています。

行動科学

行動科学では、「リバート・トゥ・タイプ」は人間が新しい行動パターンを形成する際の困難さを説明するためにも使われます。たとえば、新しい習慣を形成しようとしても、ストレスや疲労などの影響で、以前の習慣に戻ってしまうことがあるという現象です。

具体的な学問的背景

この現象は、クラシカル条件付けオペラント条件付けといった学習理論にも関連しており、これらの理論では、特定の刺激や状況に対して過去に強化された反応が再び出現することが説明されています。特に、ストレスや緊張が強くなると、強化されている「古い」反応が表面化することがあります。

学問的背景としては、スポーツ心理学や行動科学、神経科学が主に関連しており、これらの分野で「リバート・トゥ・タイプ」が研究されています。また、この現象は臨床心理学やカウンセリングにおいても、人が過去の習慣やパターンに戻る原因を理解し、行動変容を促すための介入方法を考える上で役立つ概念です。

参考文献・研究

Mattar, A., & Gribble, P. (2005). Motor Learning by Observing. Neuron, 46, 153-160. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2005.02.009.

Taylor, J., & Shaw, D. (2002). The effects of outcome imagery on golf-putting performance. Journal of Sports Sciences, 20, 607 – 613. https://doi.org/10.1080/026404102320183167.

このように、「リバート・トゥ・タイプ」は、さまざまな学問分野で研究されている現象であり、特にスポーツ心理学や神経科学において、そのメカニズムや対処方法が詳しく説明されています。