気迫と未来への挑戦:ケガを抱える選手と治療者の役割 vol.357

ある患者さんが、「先生は休めと言わないから来ました」と言ったことがあります。この言葉には、競技者としての強い意志や覚悟が表れています。選手がケガや関節の故障を抱えながらも試合に臨む姿は、競技への情熱とプロフェッショナリズムの象徴です。しかし、その背後には大きなリスクが伴い、治療者としてはどのようにサポートすべきかという難しい判断が求められます。

まず、私たち治療者が行うべきは、ケガの程度を客観的に評価することです。ケガにはレベルがあり、その評価は選手の健康を守るための第一歩となります。しかし、痛みの耐性や競技に対する思いは選手それぞれで異なり、同じケガでも試合に出場できるかどうかは個人差があります。ここに、治療者の経験や判断力が求められるのです。

加えて、選手と治療者が向き合うべきは、予測できる未来と予測できない未来の両方です。休養を取ればケガが回復し、将来のベストパフォーマンスが期待できる一方で、無理をすればさらなる悪化を招くリスクもあります。これらは予測可能なリスクとして、治療者は選手に伝えるべき重要な情報です。

しかし、未来は必ずしも予測通りに進むわけではありません。選手が今、試合に出場することで得られる経験や成果、そしてそれに伴う想定外のアクシデントや体調の変化など、予測できない未来も存在します。この予測できない未来への挑戦は、選手にとって大きなモチベーションとなり得るのです。

「先生は休めと言わないから」という言葉には、選手がリスクを承知の上で戦う覚悟が滲んでいます。私たち治療者の役割は、選手の意志や希望を尊重しつつ、予測できるリスクを適切に伝え、最善のサポートを提供することです。選手とともに未来を見据え、どのような結果が待ち受けているか分からない中でも、できる限りの準備を整えて臨むことが大切です。

このコラムでは、ケガを抱えながらも競技に挑む選手と、それを支える治療者の役割について考察しました。未来は予測可能なものと予測不可能なものが共存していますが、私たちは常に選手の健康と成功を見据えながら、その両方に対応する準備を整えていく必要があるのです。